8th ALBUM「愛された記憶」セルフライナーノーツ
■『世界が変わる』(作詞作曲:吉田山田 / 編曲:ワタナベタカシ、吉田山田)■
~実家にお邪魔して曲作りを共にしてきたワタナベくん~
吉田 僕だったら絶対に書けない曲ですね。まず「キス」のことを歌えない。それは単純に恥ずかしくなっちゃうから。でも山田の声でこのメロディで歌われると、恥ずかしく感じないんですよ。
山田 編曲をお願いしたワタナベくんは「打ち込みが得意な人」として兼松(衆)くんに紹介してもらった人で、もう2~3年ぐらいワタナベくんの実家にお邪魔して曲作りを手伝ってもらってるんです。今回のアルバム作りで打ち込み主体の曲を作りたくなって、これまで編曲として参加してもらったことはなかったけど、どうせならワタナベくんにお願いしたいなと思って作ったのが、この『世界が変わる』でした。
吉田 打ち込みで曲を作ろうとなったとき、コードはずっとループしているけどメロがどんどん変わっていくような、ちょっと洋楽チックな曲が作りたいと思ったんです。というのも47都道府県ツアーのときにルーパーという機材を取り入れてみたんですが、僕らの曲にはコードがずっとループしているような曲があまりなかったんですよね。だからこの曲ではコードをちゃんとループさせようと思っていたんですが、結局飽きちゃって(笑)。2番のAメロはちょっと展開しちゃってます。でもコードとしてはそこまで変わってないから、ライブではルーパーでなんとかなるかな。
■『ひとつぶ』(作詞:吉田山田 / 作曲:吉田山田、兼松 衆 / 編曲:兼松衆、吉田山田)■
~山田と出会っていなければ兼松くんと組んでいた~
吉田 もし山田と出会ってなくて、どこかほかのところで兼松くんと出会っていたら、一緒にデュオを組みたいくらい彼のことが好きなんです。つい最近、兼松くんと<吉田山田とカルテット>のカルテットアレンジを相談したくて、彼の家に行ったけど、本当にビックリするくらいのスピードで曲が完成していくんですよ。それはもちろん彼の才能があればこそなんだけど、相性のよさもあると思うんです。僕に足りない部分を兼松くんが持っているし、彼の足りない部分を僕や山田が持っている。だから一緒に音楽を作っていてお互い楽しいんじゃないかな。
山田 よっちゃんにこう言われても全然嫉妬とかはなくて、むしろ僕も兼松くんと組みたいな(笑)。僕の願望をうまく汲み取って、魔法使いみたいに思っていたよりすごく素敵な音楽を生み出してくれるんですよ。だから僕も兼松くんと組んだら、絶対楽しいだろうなと思っています。
吉田 リリースした直後よりも今のほうが『ひとつぶ』のことが好きになってますね。車に乗っていてこのイントロが流れてくると、すごくうれしくなるんです。カッコよすぎず、ダサすぎない、ちょうどいい曲になりました。
■『こんがらがって』(作詞作曲:吉田山田 / 編曲:→Pia-no-jaC←、吉田山田)■
~真っ先に名前が挙がった旧知の仲~
吉田 まだ→Pia-no-jaC←が夜行バスで東京に来てライブしていた頃、下北沢のBIGMOUSEというライブハウスで共演したことがあったんですよ。僕らは歌モノのデュオで、彼らはインストのデュオだから、ちょっと住む世界が違う感覚があって。初対面の時点ではそこまで打ち解けていたわけではなかったんですが、5年ぐらい前に→Pia-no-jaC←のライブに呼んでもらったときにひさしぶりに会って、相変わらず気のいい2人の人柄にすごく惹かれたんです。そのときから「一緒に曲を作りたい」と思っていたから今回コラボで曲を作るとなったとき、真っ先に名前が挙がった1組ですね。ちょうど→Pia-no-jaC←が独立して、個人事務所として活動し始めたときだったんですけど、声をかけたらすごく喜んでくれて。「やっと叶ったね」って。
山田 この曲はシンプルな楽器編成になっていて。カホンという楽器は心の中を表現するのにすごくいい楽器なんですよね。バンドでの演奏と違って、楽器帯の息遣いまで入っている感じ。
吉田 息遣いが入りすぎなのよ。HIROくんはカホンというよりシャウト担当だから(笑)。それとひさしぶりに会って“2人組あるある”みたいなことを話すのがすごく楽しくて。けっこう4人で話している時間も長かったよね。
■『才能開花前夜』(作詞作曲:吉田山田 / 編曲:木田健太郎、吉田山田)■
~折れかけても思いを貫いた頼れる後輩~
吉田 自分たちよりも後輩の音楽に触れることで、すごく感化される部分があるはずだと踏んでオファーしたのが木田くん。もしかしたら僕らが失ってしまったかもしれない情熱や熱さを彼は持っている。プライベートでも仲良くしている中で、僕らが必要としているピースを彼は持っているし、彼が今必要としているピースを僕らが持っているような気がしたんですよ。それは音楽においてだけじゃなくて、人生においても。
山田 先輩の曲をアレンジすることになって、すごく緊張してたよね。
吉田 実は木田くん、一度折れかけたことがあったんです。「ちょっと僕、無理かもしれないです」って、夜中に電話がかかってきて。僕は「すごく気持ちはわかるけど、ここで折れちゃダメだよ。『先輩の大事な曲をカッコよくしなきゃ』みたいなそういう重圧は一度置いて、木田くんが本当にカッコいいと思うことだけを追求してアレンジをやってみて」と伝えたんです。そうしたら、結果として本当にカッコいい仕上がりを見せてくれたので、本当に成功したコラボだったと感じています。
山田 木田くんはものすごく物腰が柔らかいタイプだから、最初は「大丈夫かな」って心配だったんです。でもレコーディングのときに自分の意思でしっかりディレクションしてくれて。サビ前のブリッジ的なサウンドも木田くんが提案してくれたんだよね。柔らかいのに骨太で、自分の思いを貫ける青年なので、最終的にはすごく頼りになる存在になっていました。
■『好き好き大好き』(作詞作曲:山田義孝 / 編曲:涌井啓一、吉田山田)■
~シンプルなようで深いCMソング~
吉田 涌井さんってちょっととぼけた男なんですけど、音を聴くとめちゃくちゃ繊細なんですよ。曲を聴き返すと彼のアレンジのきめ細やかさにハッとさせられる瞬間があって。数年経ってから彼の手がけた楽曲に触れたときに、再び僕の心に火を灯してくれたんですよね。だから今回のアルバムでも、涌井さんに何曲か編曲をお願いしようというのは決めていました。これはそのうちの1曲ですね。
山田 「誰かにとってのおしゃれは 誰かにとっておしゃれじゃない」って、当たり前のことで本来であれば言葉にしなくてもいいことだと思っていて。「好き」という原動力は誰にも邪魔されないものだから、「好き」というエネルギーをそのまま歌に込めた曲です。僕が日頃思っていることがそのまま歌になった1曲ですね。
吉田 山田の発しているメッセージって、シンプルなようでいて深いんですよ。そこに着目して西松屋さんがCMソングとして選んでくれたことがすごくうれしかったんですね。ただ歌詞だけをなぞると少し能天気に聞こえてしまうかもしれないので、涌井さんには少し骨太なロックサウンドでのアレンジをお願いしました。
■『グレープフルーツ』(作詞:吉田山田 / 作曲:山田義孝 / 編曲:涌井啓一)■
~10年越しに大きくなって完成した1曲~
山田 この曲のサビだけは10年ぐらいあって、今回のアルバムの中で一番古くからある曲かもしれない。ようやく今回の涌井さんのアレンジによってしっくりきた感じがする。
吉田 ロックなんだけど、ちょっと歌謡曲っぽい要素を入れたいという要望を涌井さんに投げてみたんですよね。歌謡曲というのは僕というより山田のルーツにある音楽だから、山田もアレンジのデモを聴いたときに気に入ってくれて。ようやく日の目をみることになった1曲です。
山田 『好き好き大好き』も『グレープフルーツ』も僕がおおもとのデモを作った曲なんですけど、どちらも涌井さんに曲を大きくしてもらった感覚がありますね。
■『鳥人間になりたい』(作詞:吉田山田、チャラン・ポ・ランタン / 作曲:吉田山田 / 編曲:チャラン・ポ・ランタン、吉田山田)■
~ファンにお馴染みの曲も新鮮な響きに~
吉田 『鳥人間になりたい』は昔からやっている曲なんですが、すごく色が濃くて。昔からやっているだけあって、今改めて僕らだけでは出せない曲でもあったんですよ。でもそこにチャラン・ポ・ランタンというエッセンスが加わることによって堂々と、最新アルバムの1曲として皆さんにお見せできる。ライブで聴いたことのある人にもすごく新鮮に響く曲になったと思います。
山田 この曲の大事な部分は“哀愁”と“エグみ”なんです。チャランポはそこのプロだから、いつかこの曲を一緒にやりたいなと夢見ていたんです。ただアレンジを手がけてくれただけじゃなくて、小春ちゃんには語りにも参加してもらっています。語りの内容も一部変えてくれて、“鳥人間になりたい男”の周りの人物像まで見えてくるような立体的な形にしてもらいました。
吉田 候補曲を3つくらい送った中で、僕としては「鳥人間」が第3候補だったんです。「こういう曲もありますよ」というのを知ってもらうために送っていたくらいで。そうしたら即答で「鳥人間」と言われちゃって。
山田 僕の中では断トツの第1候補だったよ(笑)。
■『おばけ』(作詞作曲:山田義孝 / 編曲:浅田信一)■
~バーのマスターのようなアレンジャー~
山田 おばけってみんな怖がるけど、僕はずっと「自分の愛する人が出てきてくれたらうれしくない?」と思うんだよね。
吉田 この曲に関しては、僕が何も手を付けなかったパターンの曲ですね。いいとか悪いとか、伝わるとか伝わらないとかじゃなくて、山田の満足が一番大事な曲だから。アレンジに関しては浅田さんと相談しましたが、歌詞に関しては完全にノータッチでした。
山田 編曲の浅田さんはすごく親身になってまず話を聞いてくれるんですよ。浅田さんのスタジオがムーディなのも相まって、気分としてはバーのマスターに話を聞いてもらってる感じ。話を聞いて、カクテルを作ってくれるみたいな感覚でいろんな楽器の音を紹介してくれるんです(笑)。すごくいい雰囲気で曲作りができたから、自分の繊細な部分がそのまま曲に出せたのかな。
■『それでも』(作詞作曲:吉田山田、橋口洋平 / 編曲:小野裕基、吉田山田)■
~橋口節全開の失恋ソング~
吉田 橋口くんとはプライベートで仲良くしている間柄なんですが、仲が良いからこそ一番時間がかかったコラボだったかもしれないですね。まずデモを送る段階で10曲ぐらい送ることになったんですよ。最初に5曲送ったら「もうちょっとない?」みたいな返事が来たので、もう5曲送って。なかなかないですよ、初めてのコラボで10曲もデモを送ることなんて(笑)。仲良くしているからこそ、お互いに絶対納得したいという気持ちが強かったのかな。
山田 10曲送って橋口くんがピンと来た曲がたまたま恋愛の曲だったんだよね。それで返ってきた橋口くんのアイデアが「僕は二番目」という内容の失恋の曲で(笑)。うわ、橋口節全開の曲が来た!と思って、うれしくなっちゃったな。
吉田 失恋ソングを作る彼が一番脂乗ってますから。『別の人の彼女になったよ』を聞いたとき、「俺には作れない」と思ったんです。ぐうの音も出なかった。橋口くんはスイッチが入るとサラサラ作れちゃうタイプの人なのを知っているから、彼のスイッチが入るまではデモを送り続けて。どこかでスイッチが入ったのか、打ち返してきた音源はもう9割方完成してました。それと僕、ずっと橋口くんと感性が似てると思っていたんですけど、恋愛観に関しては橋口くんと山田が似ているんですよ。僕は「気持ちわる!」と思いながら眺めていました(笑)。
山田 女々しいんですよ。僕らは。
■『愛された記憶』(作詞作曲:吉田山田 / 編曲:高間有一、吉田結威)■
~12年の活動で初めての挑戦~
吉田 12年の活動の中で初めてのことなんですが、この曲だけは自分でアレンジしたい欲求が強かったんです。ただ機材のことなど経験値が浅いので、いつもバンドでバンマスをやってもらっている高間さんに協力してもらって、アレンジに挑戦してみました。だから半分セルフプロデュースみたいな形でやってみて、それがすっごく満足いく仕上がりになったんです。それがめちゃくちゃうれしかった。
山田 『愛された記憶』という大きなテーマで曲を作るってすごく難しいことだと最初は思っていました。どうなるか不安はあったんですが、今の2人なら乗り越えられる予感もどこかにあって。印象的だったのはよっちゃんと歌詞のやり取りをしている中で、「君」とか「あなた」とか、人を示す言葉をどんどん削っていったんです。吉田山田の楽曲では珍しく、“誰も出てこない”曲なんですよね。それが逆に、この曲が照らしてくれる範囲を広げていると思います。
■『てと手』(作詞:吉田山田 / 作曲:山田義孝 / 編曲:浅田信一)■
~「日々」を聴いていた親子の光景から~
山田 ライブで『日々』を歌っているとき、お母さんと小さな子供が手をつないでいるのが見えたんです。最初はお母さんが子供の手を握っていたけど、『日々』を聴いているうちにお母さんが涙を流し始めちゃって。お母さんのほうが涙を拭いたりして手を離していたんだけど、曲の最後のほうになったら今度は子供のほうがお母さんの手をぎゅっと握っていたんですよね。その光景がずっと目に焼き付いていたんですよね。お母さんが子供を大切に思ったり、守ったりするためにぎゅっと手を握る。でもライブでの光景を見て、守られているのはどっちなんだろうと思って。その親子がいなければこの曲はできていないわけだから、いろんな場面があって、いろんな人たちと曲を作っているんだなあとしみじみ感じた1曲ですね。
吉田 この曲ではギターの「キュッ」というノイズを残しているんですよ。もしかしたらノイズを抑えたほうがいいという人もいるかもしれないし、なんなら僕は性格的にちょっと整えたくなっちゃう人なんです。でも整えすぎると面白くないことになってしまうこともある。整えないことで味が出る、人間味があるというのを教えてくれたのが浅田さんなんです。最近、浅田さんのアルバムをよく聴くんですが、浅田さん自身がそういう人間味のある演奏を体現して教えてくれている。だから説得力があるんですよね。
■『イ~ハ~』(作詞作曲:吉田山田 / 編曲:兼松衆、吉田山田)■
~遊びのように始めたデモ~
吉田 それぞれが考える歯磨きソングを持って、兼松くんの家のスタジオでデモを録る機会があったんですよ。3曲くらいカッチリしたデモが完成したところで時間が余ったので、ちょっとした遊びみたいな形で曲を作るノリになって。イメージとしてはカントリー調の嘉門達夫さんが歌うようなギャグソングですね。兼松くんの家のアコギを借りて適当に引きながら曲を作り始めたら、突然山田が真剣に歌詞を考え始めて。結果として、遊び半分で作り始めて1時間くらいでできちゃったデモが採用されることになりました(笑)。
山田 しっかり時間をかけて作った3曲じゃなくて、これが選ばれちゃった。音楽って不思議ですよね。僕らも楽しんで作ったデモだから、きっとその楽しさが伝わったんだろうな。
吉田 超いい曲になった自負はあったんですけど、「この曲が選ばれたらどうしよう」という話はしていたんです(笑)。だからみんな心のどこかで「これが選ばれるかも」とは思っていたんじゃないですかね。この曲に限らないんですけど、計算して曲ができる瞬間と、計算していなかった何かが起きて、曲が思いもよらない方向に舵を切る瞬間があって。コラボを交えたこともあって、今回のアルバムの制作中は“計算外の奇跡”がたくさん起こったのが印象的でしたね。