8th ALBUM「愛された記憶」オフィシャルインタビュー
<三部作では作り得なかったタイアップとコラボ>
――近年の吉田山田の活動は『変身』『欲望』『証命』という“三部作”のリリースと、そこに続く10周年という節目があり、筋道を立ててそこに沿った活動をしてきた期間だったと思います。その筋道立てた活動にひと段落が付き、「さあこれからどうするか」という1つの答えが今回のアルバムに表れていると解釈しています。
吉田 今こうして振り返ってみると、僕らの曲作りって、自分の内面から発せられた気持ちを曲に書くことと、「こういう言葉のほうが伝わりやすいだろう」みたいな作家的な気持ちで曲を書くことの2つの間でずっと揺れてきたんですよ。デビューしてすぐの頃は、どう受け取られるかとかは考えず、自分の思ったことをそのまま叫ぶように歌うことがカッコいいと思ってた。でもデビューからしばらくして、世の中に自分の歌が広がった喜びを味わったり、僕らの歌で誰かを励ますことができたりすると、どうしても聴いてくれる人の顔が頭に浮かぶから、伝わりやすい表現に寄っていく。それはそれでいいことかもしれないけど、「一般的で受け入れやすい言葉」って、僕の気持ちでも山田の気持ちでもなくなってしまうときがあるんです。そこに違和感があって、「わかりにくいかもしれないけど、これが俺の気持ちなんだ」というのを残さなくちゃいけない、そう思って作り続けてきたのが三部作、『変身』『欲望』『証命』というアルバムでした。それらを経て、今の僕はまた違った感覚を持っていて、自分の言いたいことを生かすことも、作家的な目線を持って表現を磨くこともできるようになった。それは曲作りのプロセス、山田とのやり取りにも変化が生じたし、いろんな人とコラボできるようになったことにもつながっていると思います。
山田 よっちゃんとの歌詞のやり取りは本当に変わったと思う。お互いの気持ちがどの言葉に込められているかって、やっぱり聞いてみなきゃわからないんですよ。だから「本当にこの言葉を、この言い方で言いたいのか」みたいなことをすぐ聞き合えるようになったし、意外にもそこにあまりこだわりがなかったりもするから「じゃあこの言い方にしてみよう」みたいな提案もしやすくなったし。それでお互いが納得できる形に着地させることが増えました。
――新作で多数のミュージシャンを招いたコラボを展開したのはなぜなんですか?
吉田 コラボ自体は以前から挑戦してみたいことだったから念願だったというのがあるんですが、アルバム制作に入る前に『ひとつぶ』(JA全農「国産米消費拡大キャンペーン」ソング)や『イ~ハ~』(ライオン株式会社「歯みがきのうた」)といったタイアップのお話をいただけたことが、僕らにとって大きかったかもしれないですね。三部作を作っている最中はひたすら自分たちの内面と向き合いながら曲作りをしていたから、どこかに向けた書き下ろしってできなかったと思うんですよ。タイアップというのは何かのプロジェクトや作品に対して僕らの感情を乗せていくということですし、タイアップ先からの要望がある。特に『イ~ハ~』という曲はライオンさんからすごく細かく指定が入った曲なんです。
山田 子供たちに間違った歯磨きを教えるわけにはいかないので、歯を磨く順番とか、歌を聴きながら磨く時間の長さにもものすごく気を使っていて。
吉田 結果として『イ~ハ~』は吉田山田史上、最も作家的な脳みそを必要とされた曲になったと思います。それは10周年以前の僕らにはできなかったことだったんですよね。『イ~ハ~」が完成して、「やっぱり音楽って誰かと一緒に作っていくのも楽しいことだよな」と思うようになって、今回のコラボにつながるきっかけになったと思います。
<いびつで自分勝手なものが「愛」>
――アルバムタイトルの『愛された記憶』という言葉はどこから出てきたんですか?
吉田 コロナ禍になって、自分を見つめる時間がみんな増えたと思うんですよ。自分を見つめるといいところも悪いところも見えてきて、悪いところに触れるとちょっと落ち込むというか。「自分で大した人間じゃねえな」という風に思うときって誰しもあったと思うんです。自分のことを知る一番の要素って、僕は“愛された記憶”だと思うんですよ。これは『愛された記憶」の歌詞にも出てくるんですが、例えば小学生の頃、ベランダに朝顔が置いてあったのを思い出して。で、「もし僕が親になったとして、子供が学校から朝顔を持って帰ってきてベランダに置くことになったら、ちょっと嫌だな」と思ったんです。それは嫌味な理由じゃなくて、単純にカッコよくないから(笑)。でもあのとき、僕が家に朝顔を置くことを、親は嫌がっていなかったんですよね。こういう当たり前のことこそが“愛”で、今の自分があるのはそういう“愛された記憶”があるおかげなんだよなあ、みたいな話を喫茶店でコーヒー飲みながら山田に話したら「すごくいいと思う」と言ってくれて。
山田 『愛された記憶』という言葉が、スッと自分の中に入ってきたんですよね。変に気取ってない、素直な言葉に感じて。思い返してみると、自分が曲を作るときにメモをしている言葉は、記憶にまつわることが多いんですよね。僕がこれまで作ってきた曲は、“愛された記憶”であり、“愛された記録”でもあるということに気付いた。今回、『愛された記憶』という言葉をテーマに絵を描いたんですけど、この空の色もすぐ思い付きました。これは僕が小学生のときに母親の迎えを待っているときの空の色なんです。
――絵の中央に書かれている黒いものは何を表しているんですか?
山田 穴ですね。きれいな光に向かっていく感じじゃないなと思っていて、心の中に空いた穴の中にある散らばったものを取りに行く、そんな絵だと思います。その中にはもちろん愛された記憶もあるし、中には思い出したくもないような記憶もある。あそこに行くのは怖いんだけど、何かを見つけに行きたいんです。
――絵の中には吉田山田の2人が描かれていて、吉田さんが山田さんを連れて行く形になっていますよね。これとは別のものなんですが<吉田山田展>で販売されていたキーホルダーには、吉田さんが山田さんを肩車している絵が描かれていて。吉田山田のイメージって横並びのものが多いんですが、山田さんの絵に表れている吉田山田は、吉田さんが山田さんを支えている関係性になっているのが印象的でした。
山田 絵を描いているときは何も考えずに感覚的に描いているので、自分の深層心理が絵に表れていることをあとから知ることが多いんですが、よっちゃんに支えてもらっている感覚はずっとあるんだと思います。よっちゃんが居てくれている安心感があるから、僕は好きなように曲を書けていると思うし。曲作りのときに何か足りないとき、その足りないピースをよっちゃんに探してもらったりもする。ほかの人だったら、任せられないようなことをよっちゃんになら任せられる、だから吉田山田としてやっていけてるんだと思います。
吉田 僕がうれしかったのは、『愛された記憶』の絵に犬を描いてくれたことですね。僕にとっての「愛」を語る上で初めて飼ったチャーリーという愛犬のことや、動物のことは欠かせない存在なんですよ。そこを汲んでくれて描いてくれたのはすごくうれしかったな。
山田 絵の中に僕ら2人を入れたときに「何か足りないな」と思ったんだよね。なんか見守ってくれる存在が欲しくて。よっちゃんにとって犬は欠かせない存在でもあるし、もしかしたら開けたくない蓋の中にあるかもしれない。でも『愛された記憶』という言葉を絵にするなら、そういう部分も含めて描くことが必要なんじゃないかなと思って。
吉田 「愛」というものすごく大それた言葉を使うのには理由があって。「愛」というのは必ずしも温かくて整ったものではないんです。もうちょっといびつで、自分勝手なものなんですよね。もうちょっと受け入れられやすい「優しさ」とか「幸せ」とか、そういう言葉だったら物足りなかっただろうし、山田も納得してくれなかったんじゃないかな。
<これまでの吉田山田は真面目すぎた>
――念願だったコラボでの曲作りを経て、これから先のビジョンや目標はありますか?
吉田 僕が思っているこれからの吉田山田のテーマは「不真面目」と「脱力」ですね。これまでの吉田山田は真面目すぎたんですよ。ちょっと違う言い方をすると、真面目でいればいいと思っていた。真面目であることはみんなに受け入れられやすいんですよ。だいたいのことは真面目でいれば大丈夫。でも不真面目には責任が伴うんですよ。不真面目でいるために、ちゃんと責任を負う。それが今の吉田山田には必要なんじゃないかな。
――もう1つの「脱力」というのは?
吉田 最近、ジムに通って筋トレをしているんですけど、バーベルをうまく持ち上げられないときって力んでいるんですよ。これは筋トレに限らずゲームでも同じで、思うように勝てないときって、変なところに力が入っていることが多い。何かを成功させるためには力を抜くことのほうが大変なんですよね。とにかく全力で駆け抜けるタームは20代で終えていて、これからの僕らは脱力して必要なところで必要な力をちゃんと発揮できることに重きを置いていかないとな、と思っています。山田は何か目標とかある?
山田 目標かあ。目標を言うと、それを実現しなきゃいけない気がして難しいんだよなあ。
吉田 真面目か! そういうところが真面目なんだよ!
山田 この間、自分のメモでハッとしたことだけど、「1万人の前で歌いたい」というのは僕の目標かもしれないですね。新型コロナウイルスの流行もあって、みんなに集まってもらうのが難しい状態が続いていますが、今の状態がよくなって、僕らもたくさんの人を集められるようになったら1万人の前で歌いたいですね。それが今の僕の目標です。